コーヒーのテロワールは土壌や標高だけで終わるものではなく、発酵タンクの中でも形づくられます。Food Chemistry: Molecular Sciencesに2025年12月18日にオンライン公開された研究は、ウォッシュドのアラビカを対象に、この工程を72時間にわたって追跡しました。同誌の2026年6月号に収録された論文です。コーヒーの産地はモザンビーク、チマニマニ国立公園のモンテ・ツェツェラです。少数の微生物が優勢となり、花やフルーツの香りの成分が急増します。

品種、標高、気候、土壌は、コーヒーの産地らしさを説明するときによく挙げられる要因です。10人の著者はブラジル、ポルトガル、モザンビーク、カナダで研究に携わっています。彼らはそこにもう1つの考え方を加えます。微生物テロワール、つまり「地域の微生物群集と官能表現とのつながり」です。著者たちは自身の研究を、アフリカのコーヒー発酵を対象とする初のマルチオミクス研究と位置づけています。ここでのマルチオミクスとは、化学分析とDNAシーケンシングを組み合わせることを指します。

ウォッシュドコーヒーで発酵は何をしているのか

ウォッシュドはスペシャルティコーヒーの主流の精製方法で、そのやり方は生産者によって大きく異なります。まず、機械がチェリーの果皮と果肉の大部分をはぎ取ります。出てきた豆はミューシレージの層に覆われています。豆はその後、水を張ったタンクや水槽で発酵させ、この層が十分に分解されて洗い流せるようになったら、乾燥に移ります。

タイミングは品質を大きく左右します。発酵は、気温、標高、ミューシレージの量、特定の酵素の濃度に応じて、最長72時間続くことがあります。コーヒーをこすって確かめる生産者もいます。果肉が分解されると、キュッキュッと音がするのです。長く置きすぎると、好ましくない風味がつくことがあります。

ミューシレージの除去そのものは、チェリーにもともと含まれる酵素による反応です。では、水の中にいるあの微生物たちは何をしているのでしょうか。

72時間の発酵でコーヒーに何が起きるのか

研究は収穫期の2024年6月に行われました。熟したCoffea arabicaのチェリー約12 kgを手摘みして果肉を除去し、約4 kgずつ3つに分けました。それぞれを滅菌したプラスチック容器に入れ、塩素処理をしていない新鮮な水4 Lを加えました。研究ではこうした小規模な方法が用いられます。この実験の仕組みは、生産者が工業規模のタンクで行う発酵を縮小して再現したものです。

培養菌は添加されていません。農園で行われた自然発酵で、温度は日中20〜30°C、夜間14〜20°Cでした。豆は24時間ごとに手でかき混ぜ、液体のサンプルを6回採取しました。その後、豆を十分に洗浄し、通風乾燥機で乾燥させました。

最初の数時間のうちに、微生物の酵素がショ糖をより単純な糖に分解しました。果糖は5.57 g/Lから0.19 g/Lに、ブドウ糖は4.34 g/Lから2.48 g/Lに減少しました。有機酸のなかで最も急激に増えたのは乳酸で、72時間時点で10.47 g/Lに達しました。

分析では74種の揮発性化合物が特定されました。アルコール類15種、エステル類9種、アルカン類10種を含むため、すべてが香り成分というわけではありません。重要なのは時間とともに起きる変化です。36時間までは果肉由来の化合物が、48時間以降は微生物がつくるアルコール類とエステル類が目立つようになります。

Leuconostoc、Hanseniaspora、Galactomyces:主役はどんな微生物か

環境、チェリー、人の手に由来するとされる多様な群集は、よく適応した少数のグループに取って代わられました。目立つ名前は3つです。

Leuconostocは乳酸菌です。細菌群集に占める割合は34.42%から、72時間時点で89.99%まで増えました。乳酸の蓄積と符合する結果です。生豆には乳酸が0.78 mg/g含まれていました。主に微生物に由来する乳酸で、カップでは酸味、ボディ、なめらかさと関連づけられています。

酸により強いLactobacillusは、コーヒーの発酵では通常Leuconostocを追い抜きます。ところが今回は、最後までLeuconostocが優勢でした。雲南省の試験でも、すべての発酵でLeuconostocが多く見られたため、この結果は孤立した珍しい例ではありません。

Hanseniasporaは、エステルを多く生成することで広く知られる酵母です。真菌群集に占める割合は4.15%から、48時間時点でピークの67.63%まで上昇しました。果糖はブドウ糖より大きく減少しました。これはコーヒーでの通常のパターンとは逆で、この属はしばしば果糖を好むことと結びつけられています。

Galactomycesは11.28%から始まり、終盤で優勢となって72時間時点で44.82%に達しました。乳製品やカカオでは、バター、クリーム、はちみつのような風味と関連づけられてきましたが、今回の研究ではこうした風味は測定していません。

本当の驚きは、この組み合わせです。優勢な酵母として最も多く報告されているのはPichiaで、特にコロンビア、エクアドル、オーストラリアからの報告が目立ちます。HanseniasporaとGalactomycesが揃って現れるのは、コーヒーの発酵でも、知られている他のどの発酵系でも、初めてのことと見られます。

生産者はこの流れを調整できます。雲南省で行われた、条件を管理した実験では、試験したパラメーターのなかで、発酵時間が豆の組成と官能品質に最も大きな影響を与えました。各パラメーターの影響の強さは、品種や地域の地理条件によっても変わります。

酵母を接種すると、変化はさらに大きくなります。酵母のH. uvarumまたはP. kudriavzeviiを接種したウェット発酵では、自然発酵の対照群に比べ、生豆の代謝物(微生物がつくる化合物)が2〜3倍になりました。そのカップは、風味、アロマ、酸味の評価も高くなりました。こうした代謝物の量は焙煎後に大きく減りましたが、それでも対照群より高いままでした。

花やフルーツの香りの分子はどこから来るのか

エーリッヒ経路は、名前ほど難しいものではありません。酵母が数段階の反応を経て、アミノ酸のフェニルアラニンを香り高いアルコールに変えるのです。それがバラのような香りをもつフェニルエチルアルコールです。フルーツの香りをもたらすのはエステルで、アルコールが酸またはその誘導体と反応して生成されます。

発酵液中の成分香りそれ以前の値72時間時点
フェニルエチルアルコールバラのような香り開始時は0376.90
リナロールフローラル開始時は20.62475.45
酢酸エチルフルーティー、甘い60時間時点で200.827,842.38

値は正確な濃度ではなく推定値です。74種の化合物すべての標準物質が揃わなかったため、フェニルエチルアルコール換算のµmol/Lで示されています。

リナロールは発酵前からすでに存在し、その後急激に増えました。アフリカのコーヒーでは、この系統の化合物はジャスミン、柑橘、ベリーのようなノートと結びつけられています。この増加は酵母の活動と符合しますが、微生物に由来するというのは、あくまで仮説です。

ペルー、ブラジル、オーストラリアの研究と並べると、今回のリナロールとフェニルエチルアルコールの値は際立って高く見えます。

生豆では、フェニルエチルアルコールがクロマトグラム面積の2.5%を占めました。これは濃度ではなく、分析で得られた信号に占める割合です。

続いてブラインドカッピングが行われました。焙煎後に18時間休ませたコーヒーを、3人のQグレーダーが試飲しています。SCAプロトコルで87.25点というスペシャルティグレードのスコアを獲得し、フローラルで赤い果実を思わせる特徴がはっきり現れました。

この結果について押さえておきたい3つのこと

  • 1ロット、1か所、1回の収穫:チェリーはすべて単一のロットから採られ、対照群もありませんでした。
  • テロワールとの優劣はつけていない:発酵は標高、品種、土壌に加わる要因です。今回、これらはいずれも変化させておらず、測定もしていません。
  • 測定はカップの手前の段階:化合物は発酵液と生豆で分析されたため、試飲で感じたノートとの関係は相関にとどまります。

ミューシレージの話に戻りましょう。72時間時点で優勢だった微生物からは、ミューシレージを分解する遺伝子は見つかりませんでした。今回ミューシレージを取り除いているのはコーヒー自身の酵素かもしれません。確かめるには、より早い段階でのサンプル採取が必要です。

コーヒー豆の袋の「ウォッシュド」と「フローラル」からわかること

第一に、「ウォッシュド」は未発酵という意味ではありません。この工程には発酵の段階が含まれており、今回はその範囲の上限である72時間まで行われました。ウォッシュドのコーヒーは、より際立った輪郭のある酸味を示すことがよくあります。イルガチェフェのウォッシュドのロットには、お茶や柑橘を思わせるノートをもつ、非常にフローラルで香り高いものもあります。

第二に、フローラルな化合物だけでは、1つの産地を指し示すことにはなりません。リナロールは、中米からインドネシアまでのシングルオリジンのアラビカ10種のほぼすべてで検出されましたが、おそらく香りを変えるには弱すぎる量でした。同じ10種では、産地よりも焙煎度のほうが揮発性成分のプロファイルを大きく分けていました。湿潤亜熱帯気候のサンタカタリーナでは、別の微生物群集(Enterobacter、Fusarium、Pantoea)からもスペシャルティコーヒーが生まれましたが、クエン酸の酸味は控えめで、ボディは中程度でした。

第三に、精製方法の欄は読む価値があります。品質の高い豆の袋には、たいてい産地、品種、精製方法、風味が記載されています。そのリストに微生物はありませんが、精製工程のごくわずかな変更が驚くような結果を生むことがあり、その探究はまだ続いています。

今後の用途として見えているのは2つです。地域に合わせたスターターカルチャーと、アフリカのスペシャルティコーヒーを区別するための基準です。どちらもまだ存在しません。

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